1.三絃独奏曲「去来」(1967年)
静・動・静・動・動・静。大別して六つの部分から成る。心をよぎるさまざまな思いを三絃の伝統的手法を通して表現しようとしたもので、強弱、遅速を問わず、いずれの節調にも、三味線音楽特有の緊張感が期待される。(作曲者解説)
2006年5月、第12回長谷検校記念・くまもと全国邦楽コンクールにて、優秀賞を受賞。同日、熊本城内細川刑部邸で行われた受賞者コンサート出演。翌年2007年には、同曲の演奏でNHK邦楽オーディションに合格。
それから14年が経ち、改めて今「心をよぎる(去来する)さまざまな思い」を、この撥に込めて表現したい。
2.箏三絃二重奏曲(1961年)
三絃と箏という二つの伝統的邦楽器による楽曲ですが、殊更安易な妥協的融合性はもたせず、両者ができるだけ個性の主張を行うことにより、従来の作品にみない独自性を与えようとした作品です。三絃は二上り、箏はやや変則的な平調子風調絃によって開始されますが、途中で三絃が本調子に転じ、箏もそれに対応した音高に転じてゆきます。(作曲者解説)
2014年9月、広島県神石郡神石高原町のやまなみホールで開催された「いちえの会コンサート vol.12」で帯名氏と共演。
二種の楽器が伝統的な邦楽とは異なる響きを奏でるこの曲は、風光明媚で星空の幻想的な神石高原の景色と調和し、私自身にとって心に残る演奏となった。
3.尺八・三絃二重奏曲「明鏡」(1975年)
尺八が胡弓に代わって三曲構成の一翼を担うようになってから既に久しく、今では一般的に、尺八の合奏は箏曲系の楽器や奏者によるものが最も自然で、且つ、融合しやすいと考えられているようです。正にその通りであろうかとも思われますが、翻って、尺八本曲、就中、琴古流系の演奏に想いを致す時、その間合いや呼吸法には、長唄を含む三味線音楽のそれと極めて相似するものがあり、そこに新しい組合せの可能性を感取することが出来ます。(作曲者解説)
2007年9月の「いちえの会コンサート vol.5」で夕山氏と共演。
これまで、田辺洌山氏、坂田梁山氏、同じ日本音楽集団所属の米澤浩氏など、名だたる尺八奏者の方々とご一緒させていただいた、貴重なレパートリーの一曲。
4.三曲「待春」(1984年)
気象庁の気象観測開始以来と云われる降雪回数と積雪量。いつまでたっても防寒具を片づけられない寒い日の連続。今年くらい暦の上ばかりでなく、実際に暖かい春の日の訪れが待ち遠しかったことは嘗てない。
そんな心の深奥に先づ三絃が鳴りはじめ、箏がこれに協和し、やがて尺八も加わって遂に一曲の体を成すにいたった。春を待ちのぞむ心から生まれた作品、即ち[待春]である。(作曲者解説)
コロナ禍で中止となった今年9月の「いちえの会コンサート vol.18」予定演目。
作曲は昭和59年4月。前年末から翌年3月にかけて記録的な豪雪となり、後に「五九豪雪」とも呼ばれた。暖冬傾向の近年では考えられないが、この年は東京都内でも29回の降雪を観測し、最大92cmの積雪を記録。サクラの開花が4月中旬という非常に遅い春であった。
今、コロナ明けを待つ我々の心情は、「待春」そのものである。
吾妻颪という寒風が、通学する自転車に容赦なく吹き付ける郷里、福島において、春を心待ちにしていた頃が思い出される。