1.春三題(1977年/長澤勝俊)
Ⅰ若草、Ⅱ陽炎(かげろう)、Ⅲ花吹雪
三味線と箏の二重奏。初演は沢井忠夫(三絃)、沢井一恵(箏)。初演以降、地歌三絃での演奏が多く行われる。
春によせる三つの心象的なスケッチです。各章ともにそれぞれ題名がついていますが、いわゆる描写音楽ではありません。四季の変化に富んだ日本。特に日本の春は急速にやってくる北国の春と違い、おだやかで心もなごむものです。
しかしそのなごやかさの中にも、ささやかな新しい生命の誕生と躍動が私たちに生きていることの喜びを感じさせます。地歌三味線と箏の二重奏という伝統の土壌に深く根をおろした組み合わせをとりながら、従来の手事とは異なったアングルから作曲者の春への思いが歌われています。[日本音楽集団ノート]
2018年1月、日本音楽集団 第223回定期演奏会「三本の糸の小宇宙 ~三味線特集」にて、三宅氏と共演。
2.海鳴り(1999年/石井由希子)
三味線と十七絃箏の二重奏。
うみなり【海鳴り】:海の方から鳴り響いてくる遠雷のような低い響き。うねりが海岸で砕けるときに空気を巻き込んで発する音。しばしば台風や津波などがくる前兆とされる。
海のうねりを思わせるような十七絃箏の序奏で始まり、三味線はリズムを鋭く刻みます。中間部では、十七絃箏の穏やかなメロディの上で三味線は余韻を響かせます。終結部では、二つの楽器が一丸となって激しく海の詩(うた)を奏します。[作曲者ノート]
2009年9月、広島県神石郡神石高原町のやまなみホールで開催された「いちえの会コンサート vol.7」で帯名氏と共演。
3.月影幻想曲 Shadows of the Moon(2008年/Marty Regan)
三味線と尺八の二重奏。
三曲では一般的なこの二種の楽器の二重奏は、現代作品としては稀有であり、「明鏡」(杵屋正邦)に並び貴重なレパートリーとなる可能性が感じられる。
「月影幻想曲」は和楽器の為に作曲した曲の中で、最も暗く、渋い作品の一つである。この詩的な曲名は、音楽の暗さや遠さという特性を描写する。三味線と尺八のリリカルな二重奏で哀愁的に始まった後、表情豊かな尺八ソロに対して、三味線が所々寄り添う。次に活気のあるセクションが現れ、冒頭の曲想が三味線によって展開される。このセクションは次第にリリカルなセクションへと落ち着き、二つの楽器は、それぞれ均等に旋律を分担する。最後のカデンツァに入ったと感じられた後、曲はゆっくりと再び活気づき、狂乱的で駆り立てるようなセク
ションへと移行する。激しいエンディングになると思われる時、すぐに休みを挟んで、曲中に散りばめられているリリカルな曲想を映し出しながら終わりを迎える。月のある部分が、ゆっくりと闇の中へ沈み、そしてまた光の中に現れるといった、月の自転をイメージする事によりインスピレーションを得た。[作曲者ノート]
2016年日本音楽集団アメリカ3都市ツアー、ヒューストンAsia Society Texas Centerにて演奏。
4.三色のダイアローグ(2000年/吉崎克彦)
三味線、十七絃、尺八による三重奏。
ダイアローグとは対話の意味で、途中に地歌「黒髪」の一節が引用されている。
三絃・十七絃・尺八……三つの音彩は、互いの主張を断固として譲らない。古典から現代への時の壁を飛び越えることで、近くて遠い三色の融合を生むことが出来ないだろうか。音彩を失うことなく、互いの対話を具現化できないものだろうか。はてさて、このモチーフの再現は、まるで難破船のように果てしない旅であった。[作曲者ノート]
2015年9月、「いちえの会コンサート vol.13」にて、帯名氏・夕山氏と共演。